ボタンの穴

 

ポカポカ陽気の縁側で、お母さんが裁縫箱をひろげてハルちゃんの洋服にボタンを付けています。
ハルちゃんは小学3年生。まだボタン付けはさせてもらえません。お母さんのそばで、ハルちゃん
はボタンの穴に針が通る様子を眺めていました。

ハル: ねえ、お母さん。ボタンの穴ってどれも四つなの?

母 : 二つとか、一つだけのものもあるのよ。ホラ、見てごらん。お裁縫箱にもこんなに色々な
    ボタンが入っているでしょ。

ハル: ホントだ、みんな違う。ボタンの穴の向こうには何があるのかな?ア~ッ、ボタンの穴が
    どんどん大きくなっていく。ワ~ッ、吸い込まれちゃう。お母さん助けて~!
    どうしよう。何かを掴んだみたい。糸だ!キャ~、どんどん滑り落ちていく。糸をしっか
    り掴まなくっちゃ。どこまで下りるの?ドスン!イテテ。ここはどこ?

ハルちゃんが周りを見回すと、足元には大きなじゅうたんが敷かれています。お母さんのエプロン
の柄に似ていると気付き、少し落ち着きました。ハルちゃんは起き上がり、遠くに見える丘のほう
に向かって歩き始めました。

ハル: あの丘の上に行けば周りが見渡せそうだから、ここがどこなのか分かるかもしれないな。
    何、あれ!カメかな~。丘の方から大きなカメがやって来る。どうしよう。
    こんな時は逃げるが勝ちだよね。

カメ: ハルちゃん、待って~逃げないで。僕だよ、カメハメハだよ。そこにいて~。

ハル: エッ、どうして私の名前を知っているの?それにカメハメハは私が飼っているカメの名前
    だよ。今、水槽の中にいるんだからね。

カメ: 僕がそのカメハメハなんだよ。ハルちゃんがボタンの穴に落ちるのが見えたから、直ぐに
    追いかけてきたんだ。一人ぼっちで怖かっただろう?でも、もう大丈夫。

ハル: どうしてカメが話せるの?なぜ、ここにいるの?ここはどこなの?私は帰れるの?

カメ: ハハハ、心配しなくていいよ。さあ、僕の背中に乗って。

カメハメハは噴水のある池にやって来て、ハルちゃんを背中に乗せたまま池に入り、中央にあるハ
スの花と葉っぱをかたどった噴水に着くとハルを背中から下ろしました。

カメ: 噴水の水は止めてあるから、怖がらないでハスの葉に座ってごらん。空から糸が垂れてるだ
    ろ。その糸をしっかりと掴むんだよ。水が出始めるとその勢いで体が浮き、そのあとは糸
    がハルちゃんを上に引っ張ってくれるんだ。しばらく昇るとトンネルがあるから、そこを
    抜けると穴に落ちる前の場所に戻れるよ。

ハル: 分かった。でもカメハメハはどうするの?

カメ: 僕は大丈夫。それじゃ~、噴水の水を出すよ。あとでちゃんと会えるからね。

ハル: キャ~ァ、体が持ち上がった。糸が身体を引っ張っていく。どこまで昇るのだろう?
    アッ!トンネルの中に入っていく。きっとこれで戻れるんだね。

ハルちゃんは何が何だかわからないうちに、暗いトンネルに吸い込まれました。そのあと、急に明
るい場所に出ました。周りを見渡すとお母さんの優しい笑顔が見えました。ハルちゃんがホッとし
たのも束の間、またまた急に体が引っ張られたのです。そして再び大きなボタンの穴の中に吸い込
まれ、真っ暗な闇の中に落ちて行きました。しばらくすると、今度は森の広場に落ちたようです。

ハル: しまった!糸から手を放すのを忘れたから、また、穴の中に引き戻されて落っこちちゃっ
    た。ここはどこ?前とは違う穴に落ちたのかな?カメハメハはここにいなさそうだし、ど
    うしたらいいのかな~。

ハルちゃんが周りを見渡すと、遠くから大きな動物がこちらに向かって突進して来ました。

ハル: 大変だ~襲われる。早く逃げなくっちゃ。

ムータン: ハルちゃ~ん。逃げないで、私よ、ハムスターのムータンよ。ハルちゃんが穴から落
      ちるのが見えたから、追いかけて来たの。早く私の背中に乗って!

体は大きいけれど確かにムータンです。ハルは安心しました。ムータンはハルを背中に乗せて歩き
始め、川のほとりの水車小屋に着きました。

ムータン: さあ、着いたわよ。この水車の歯車には空から降りてきた糸が巻きついているでしょ。
      水を止めている板を外せば、水車は回り始めるわ。私も歯車の中に入って回わすか
      ら、ハルちゃんは糸をしっかり掴んでいてね。そうすれば、糸に引っ張られて上に
      昇れるわ。トンネルを抜けるとボタンの穴の外に戻れるから、がんばってね。

ハル: 分かった。でもムータンはどうするの?

ムータン: 私は大丈夫。後でちゃんと会えるから。それじゃ、水を流しま~す。

ハル: キャ~ァ、体が持ち上がった~!糸が上へ上へと私を引っ張り上げているよ。どこまで昇
    るの?アッ、トンネルだ。中に入っていく。きっとこれで戻れるんだね。

ハルちゃんは糸に引っ張られてドンドン上に昇ります。そしてトンネルを抜けると、再び明るい世
界に出ました。

母 : ハルちゃん。そんなに糸を引っ張ったら、ボタン付けができないじゃないの。早く手を放
    して頂戴。

ハル: は~い、放すね。これでもうボタンの穴には落ちないはずだよね。

母 : エッ?ボタンの穴に落ちる?一体、何を言ってるの?変な子ね。

ハルちゃんは突然立ち上がり、カメハメハとムータンのいる部屋に駆け込みました。だって、カメ
ハメハやムータンが、ちゃんと戻っているかどうかが心配で、心配で、たまらなかったものですか
ら。

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