キツネだらけの「女化(おなばけ)まつり」

女化まつり

 

老夫婦が住む地域には女化神社という風変わりな名前の神社があります。この神社には「キツネ
の恩返し」という民話が残されています、かつて、ここは女化ヶ原と呼ばれた原野でしたが、今
では大規模な住宅団地ができて、昔からの地元住民と共存しているエリアになっています。
初詣ともなると新住民と地元住民の善男善女が長蛇の列を作り、1時間以上並ぶことは珍しくな
いほどの人出です。2016年も初詣に参りましたが、今日の話は、昨年の12月の出来事です。
朝刊に挟んであったチラシの一枚に目が止まりました。

妻: ねえ、女化神社の近くで「女化まつり」って言うのがあるみたいよ。初午には境内で植木市
   や農耕器具市が開催されることは知っているけど、このお祭りは知らなかったわ。
   今日は神社から会場までシャトルバスが出ているのね。

夫: このチラシの内容を見ると農業祭の色合いが強いようだから、野菜の買出しのつもりで出か
   けてみようよ。

早速、新住民の二人は神社に駐車して、祭り会場の区民会館広場にやってきました。区民会館の
建物は昔の学校のような木造でなかなかの趣きです。運動場くらいの広場にはテントが並んでい
て、ブラスバンドの奏でる音楽が流れる中、この地区のお年寄りや青年たちの威勢の良い声が響
いています。入るとすぐにキツネにまつわる祭りであることが分かります。

夫: 入り口ではワラにかけられたたくさんのキツネのお面がお出迎えだ。それに、顔にキツネの
   メーキャップをした子供たちが走り回っているよ。かわいいね。

妻: 若者たちもキツネのお化粧をしているし、キツネのお面を頭につけている人たちもいて、キ
   ツネだらけの広場ね。徹底して懲っているわ。

夫: 100円で野菜を袋に詰め放題だとか、果物の販売、それに豚汁・焼きソバの販売など。やは
   り、これは農業祭といった感じだ。舞台では、またブラスバンドの演奏が始まったよ。
   お客さんも集まって、会場が一気に盛り上がったね。

二人は一つずつテントを覗き、豚汁を買って食べたり、無料配布の蒸かし芋を頂きながら、キツネ
面をつけた地元のおばさんたちとの会話を楽しみ、祭りの雰囲気を満喫しています。

妻: キツネさんが生まれる場所が分かったわ。

夫: エッ、どういうこと?

妻: あのテントでキツネメークをしてもらっているのよ。何人も順番待ちをしているわ。その子
   の顔に合わせて微妙に変えているから、みんな違ってみんないいわね。
   キツネのお面は無地のお面に、自分たちで目や口を描いているんだわ。だから、みんな違う
   お顔をしていて、なんだかいい味を出しているわよ。

夫: あぁ、そういうことね。キツネが生まれる場所って言うから、ビックリしたな。だけど写真
   を撮りながら、それ以上後ろに下がるなよ。餅つきが始まっているんだ。キツネ顔の若者た
   ちが餅をついている。これは絵になるよ。写真を撮っておいてね。

妻: 向こうの畑のほうから、大きな大根を何本も抱えている人が歩いて来るわ。きっと大根堀り
   をやっているのよ。行ってみましょう。

夫: よし行こう!大根堀りなんて初めてだ。楽しみだ。

世話人: このビニール袋に入れられるだけ入れて100円だ。3本から4本は入るよ。いいのを選ん
     でね。はい、いってらっしゃ~い。

夫: 大根は土からこんなに首を覗かせているんだね。どれもみんな太そうだよ。選ぶ必要なんて
   ないんじゃないかな。欲張らずに3本確保といこう。

妻: 写真を撮るから、2本はあなたが抜いても良いわよ。1本は私に抜かせてね。

夫: 周りで子供たちも大根堀りに夢中だよ。これはいいイベントだ。さてと、選ぶ必要はないか
   ら最初の1本は一番手前にあるのを抜こう。エイッ、抜けたぞ。大根ってこんなに簡単に抜
   けるんだね。初めて知ったよ。どうだ、太くていい形だろ?

妻: そこでストップ!パチリ。選んでいないと言いながら、太めのものを選んだでしょう。欲が
   顔に出ているわ。

夫: 全く嫌味だな。プロの畑に悪い形の大根なんてあるわけないよ。2本目にいくぞ。
   ソラ!タハ~、ナンダ、コリャ!?3本足の変な大根だぞ。こんなのもあるんだね。この不
   細工な大根を袋に入れたらそれだけで袋がいっぱいになっちゃう。どうしよう。

妻: 世話人さんがジェスチャーで、そこに置いておけと知らせているわ。助かったわね。

夫: 太っ腹だね。ありがとうございます。それではこれを抜こうかな。オー、いい形だ。

妻: 私も1本抜くから写真を撮っといてくれる?ハイ、抜けた。これはまっすぐで重いわ。

ビニール袋に3本の大根を詰め込みました。しかしその重いこと。この大根を抱えながらこれ以上
この会場内で時間を過ごすことは出来ません。そこで、今日は帰ることにして広場を通り抜けよ
うと歩いていると、テントからおばさんが出てきて声をかけてきました。

おばさん: こんなに全部の葉っぱをつけたままじゃあ、重いだけだよ。どうせ、葉っぱなんて全
      部は食べないだろう?周りの固い部分を取り除いてあげるよ。

こう言って、夫の抱える大根の葉っぱを周りからもぎ落としてくれました。

おばさん: これくらいで、どうだい?落とした葉っぱは私が片付けておくよ。
      ついでにもうちょっと大きい袋をあげるから、それに入れて行きなよ。

夫: 何から何まで、ありがとうございます。お陰様で持ちやすくなりました。

妻: 大根畑の件といい、この辺の人たちはみんな親切ね。それでも太い大根だから重いでしょ。
   落とさないように気をつけて歩いてね。

夫: 区民会館内の展示物も見たかったけど、今日は重い大根を抱えちゃったから、無理はしない
   でおこう。それにしても、やさしくて心の温かい人に出会えたね。

二人は「来年も来よう。でも大根堀りは帰る直前にしないといけないな」と話しながら、帰りの
シャトルバス乗り場に並ぶ人々の長い列を横目に、重い大根を抱えて駐車場まで10分ほど、汗
をかきながら歩いて帰りました。
葉っぱを含め、しばらくの間は食卓に大根料理ばかりが並びましたが、どれも美味でした。

民話:「きつねの恩返し」

猟師に狙われていた白狐が忠七という農夫に助けられます。そして、この白狐が娘に化けて忠七
の家に来て泊めてもらい、よく働くので忠七の嫁になりました。そして子供が3人(女・男・男)
生まれ幸せに暮らしていましたが、うっかり寝ていた時にしっぽを出してしまい、それを子供に
見られて、家にいることができなくなり姿を消してしまいました。
姿を消したのがこの女化神社の奥の院のあたりだといいます。女化神社の参道にある狐の像には
本堂に向かって左側に子狐が2匹。右側に1匹います。これは、物語の中で出てくる子どもの数で
す。物語と神社が今でも一体になっているのを感じます。

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