風神の子「風太郎」と「松婆ちゃん」

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風太郎は風の精。ただ今、風神になるための修行中です。今日も突風船に乗り、
肩に担いだ白い袋を一気に膨らまして空中を移動し、大きな湖を見下ろす丘の上に
やってきました。そこには古い松の木が一本、立っています。

風太郎: やあ!松婆ちゃん、久し振りだね。相変わらず立派な枝ぶりだけど、何歳
      になったの?

松婆 : これ、風太郎!婆さんに歳を聞いてどうするんだい?それに、100歳になっ
      た時に面倒臭くなって数えるのをやめたから、今じゃ自分でもはっきりしな
       いんだよ。
      それにしても、突風船を乗りこなすのが、ずいぶん上手くなったじゃないか。

風太郎: ホントかい?日々の修行が少しは実を結び始めたのかな。

松婆 : アァ、きっとそうだ。ところで、頼んでおいた鶴松姉さんの様子は分かったかい?

風太郎: そうそう、それを伝えにここへ来たんだ。松婆ちゃん、言いにくいんだけど、悲し
      い知らせだよ。どうやら、鶴松姉さんは寿命が尽きてしまったようだね。
      鶴松姉さんのいた場所には切株しか残っていなかったんだ。

松婆 : 何!切株だけ?本当かい?ウ~ン、幹から切り倒されたのなら、私も一番恐れ
      ているマツ枯れ病にやられてしまったのだろうね。お前さんの仲間の話じゃ、
      鶴松姉さんは私よりもずっとずっと枝ぶりが良くて、まるで鶴が舞っているよう
      な見事な姿だから、たくさんの見物人が来るほどの人気者だったはず。
      どうして、そんなことに・・・人間たちも悲しんでいることだろうよ。マツ枯れ病は
      本当に恐ろしい病気だ。人間たちが早く気付いて、しっかりと手入れする以外
      には治療する方法がないんだ。

風太郎: そんなに怖い病気なの?松婆ちゃんは、その病気にかかってなんかいないよ
      ね?

松婆 : 今のところ大丈夫だ。こうやって、この姿を維持していられるのは近くに住む人
      間たちが年老いた私のことを心配して、しょっちゅう手入れをしてくれているか
      らなんだよ。急な坂道を登って来て、天敵のマツクイムシにやられていないか
      どうかを確かめてくれるんだ。恐らく、鶴松姉さんの病気に人間たちが気付い
      た時には、もう手遅れの状態だったんだろうね。残念だな。

風太郎: ねえ、鶴松姉さんとの思い出を聞かせてよ。僕には動物村って所に仲良し3
      人組というお友だちがいてね、次に会う時には動物村の外の世界の話を教
      えて欲しいと頼まれているんだよ。
      彼らに松婆ちゃんと鶴松姉さんのことを話してあげたいんだ。

松婆 : そうかい、そうかい。風太郎には友だちがたくさんいるんだね。思い出話と言
      われても、生まれてすぐに別々の場所で暮らすことになったから、何を話せ
      ばいいのかわからないが、鶴松姉さんを偲ぶために、しばらく話を聞いてく
      れるかい?

風太郎: もちろん!しっかり聞いて、全部覚えておくよ。

松婆 : いい子だね。私たちの親は人間たちが特別な木として大切に、大切にしてき
      た松なので、その子孫を絶やさないようにと、別々の違う環境で育てられる
      ことになったんだ。鶴松姉さんは由緒あるお寺の広い境内に、わたしゃ、こ
      の小高い丘の上にひっそりと、いや、目の前の湖を見守る位置に植えられ
      たんだよ。

風太郎: それじゃ、お寺の境内で人間たちに囲まれて、大切に育てられたはずの鶴
      姉さんの方が先に寿命が尽き、こんな丘の上に1本だけポツンと立っている
      松婆ちゃんが生き残ったんだね。

松婆 : お前は風神の子だろう。それなのにイヤなことを平気でズバリと言うね。怒るよ。

風太郎: ごめんなさい。そんなつもりじゃないんだ。だって、松婆ちゃんも地元の人間に
      大切にされているから、1本だけだって孤独じゃないんだろ。多分、地元の人
      間たちは松婆ちゃんの事を、湖を見守ってくれる立派な松の木として尊敬して
      るんじゃないの?

松婆 : そうかな?話を続けるよ。鶴松姉さんの周囲はきれいに整備され、季節ごとに
      美しい花が咲き誇るから、それを見物に来る人間たちがどんどん増えていた
      そうだよ。みんな、鶴松姉さんの美しい姿をうっとりと眺めていたらしいね。
      そんな鶴松姉さんの噂をお前さんの仲間から聞いて、わたしゃ、姉さんのこ
      とを誇りに思っていたんだよ。それにしても、命には限りがあるんだね~、
      例外なく。

風太郎: ちょっと聞いてもいいかな?以前から不思議に思っていたんだけど、どうして
      松婆ちゃんは僕たちと会話ができるの?

松婆 : 私らの親は人間たちにとって特別な木だったと話しただろ。気高い何かが宿
      る特別な木で、不思議な霊力を持っていたんだ。私たち姉妹の身体には親
      から受け継いだものが宿っているらしいんだな。だから、その見えない力に
      よって、風太郎たちと話ができるんだと思うよ。

風太郎: それって、すごいことだね。それじゃ、動物村の仲良し3人組とも話ができる
      かも知れないな。今度、教えてあげよう。すごい土産話が手に入ったぞ。

松婆 : だが風太郎や、わたしゃ、ここから動けないよ。その仲良し3人組とやらがここ
      に来ない限り、会話ができるかどうかを確かめることはできないね。

風太郎: ウ~ン、3人組を僕の突風船に乗せるわけにはいかないし。なんとか、仲良し
      3人組をここまで連れてくる方法はないかな?

松婆 : どうして、そんなに3人組と私を会わせたいんだい?

風太郎: 僕は松婆ちゃんに新しい友だちを紹介できたらいいなって思ったんだよ。あの
      子たちと会えば、きっと楽しくなるから、悲しみも少しは癒やされると思うんだ。
      修行の合間に、智恵をしぼってみるね。

松婆 : 姉を失って気落ちしている私のために、気を遣ってくれてありがとう。
      お前はきっと、立派な風神になれるよ。また来ておくれ。

空に浮かんでいた突風船が勢いよく動き出し、形の良い白い雲を吐き出しながらどん
どん小さくなっていくのを、松婆ちゃんは涙をこらえながら見送ったのでした。

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