六人の僧 お江戸でござるか? その2

完成版 六人の僧 お江戸でござるか その2

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カミナリの衝撃で、二十一世紀の映画ロケ施設「ワープステーション江戸」に忽然と現れ
た六人の僧。たまたま見学に来ていた子供たちとの会話から、時間と空間を飛び越えて
しまったらしいことに気付き始めましたが、今少し、状況が飲み込めていない様子です。

子供B : 元の時代に戻るには、お坊さんたちがこの施設の中で最初に居たと思う地点
      に立って、考えてみるのが一番いいんじゃないかと僕は思うよ。
子供A : 原点に戻るんだ。ドラマの「仁」でも、そうだったよね。
一の僧 : そういうものなのか?物知りな子供たちだな。
三の僧 : その前に、見慣れた長屋がすぐそこにあるから、ちょっと寄ってみましょう。
五の僧 : オ~、このドブ板。井戸も厠あるぞ。だけど、家の中には布団も茶碗もなくて、
       生活の匂いが全くしないな。コロリ(コレラ)でも流行って、逃げ出したのか
       な?
六の僧 : それはないと思うぞ。この子たちはみんなピンピンしているではないか。

自分たちが居る所は、本物の江戸ではなさそうだし、子供たちの話す内容も理解し難い
ので、六人の僧たちはすっかり混乱しています。長屋の井戸の前に集まって今後のこと
を話し合うことにしました。すると突然、そこへ数名の大人が駆け寄ってきたのです。

見学者A : お坊さんだ!今日は撮影が無いと、受付で言われたけど、リハーサルです
        か?
見学者B : 見事に本物っぽく扮装していますね。写真を一緒にお願いします。
一の僧 : オイオイ、袖を引っ張るなよ。強引な人たちだ。みんな笑顔だし危険は感じな
       いが、そんなに坊さんが珍しいのかな?それに「写真」って何だ?
見学者C : 10秒間、動かないでくださいよ。セルフタイマーですからね。
二の僧 : 無神経に体をぴったりと寄せてくるとは、いささか失礼ではないか。
三の僧 : 悪い人たちではなさそうなので、黙って付き合ってあげましょう。
見学者A : ハイッ、チーズ!どうもありがとうございました。
見学者B : 遠くから見学に来たのに、ガランとしたロケセットだけでは物足りないと思っ
        たけど、皆さんのお蔭で良い記念写真が撮れましたよ。ありがとうござい
        ます。

大人の見学者たちは「よかったな~」と言いながら立ち去りました。そして、子供たちも帰
宅する時間が迫り、お坊さんたちのことを案じながら、親御さんの待つ場所に行ってしま
いました。子供たちを見送ったあと、改めて善後策を相談し始めた六人の僧は、子供た
ちの言葉に従って、原点だと思われる日本橋のたもとへやって来ました。

四の僧 : ここの人たちは皆、健康で幸せそうだから、ワシらの出る幕はなさそうだな。
三の僧 : 確かにそのようです。我々を必要としている村人たちの住む所に戻りましょう。
一の僧 : どうやって戻るかが問題なのじゃが、ワシはあることを思い出したぞ。

一の僧は、先輩の僧から聞いた話を詳細に語りました。その先輩僧は山奥で修行中、
天狗に出会ったのです。その天狗は何かのはずみで突然、別の世界へ移動してしまっ
たのですが、動物の子供たちに助けられて、無事に元の世界に戻ることができたとい
う話でした。

一の僧 : ワシはこの話が眉唾モノじゃと思うておったが、今、我らに起きていること
        を考えると、本当にそういうことが有り得るようじゃな。
六の僧 : 今の話では、動物たちが持っていた石に太陽の光が当たり、その反射光を
       浴びた祠が急にガタガタと動き出して、出入り口がぽっかり開いたので、
       そこから天狗は生還できたのじゃな。このあたりにも出入り口があるかもし
       れぬ。探してみよう!
二の僧 : ちょっと待て。気になっている場所があるのだ。先程行った城の堀に紫色の
       花が群生した一角があったのを覚えておるか?花が咲いていたのはあそ
       こだけだったし、花の数といい、美しさといい、何故か気にかかる。
       深い霧の中で知らぬ間に移動して、たまたま景色が見え始めたのが、こ
       の橋のたもとだったのかもしれぬぞ。もしかしたら原点はあの花の辺りだっ
       たかもしれぬ。行ってみようではないか?
三の僧 : あの廻船問屋の前に舟がつないである。あれに乗って行ってみましょう。
四の僧 : 6人が共に乗れるかどうか心配だが、皆がバラバラにならぬほうが良いな。

僧たちは6人で一緒に舟に乗り、紫色の花が群生している所にやって来ました。しかし、
出入り口らしいものは見つかりません。そこで、僧たちはこれまでの修行の成果を発揮
する時だとばかり、一心不乱に読経を始めました。しばらくすると紫色の美しい花たちが
一斉に舟の周りに集まってきて、芳香を放ち始めたではありませんか。その香りが最高
潮に達した時、六人の僧の姿は少しずつ、少しずつ薄くなり、やがて見えなくなりました。

施設職員 : さ~、今日も閉館時間になったぞ。お客さんは残っていないかな?
        あれ!なぜ、ホテイアオイの群落の中に舟があるんだ?この舟は今朝、
        僕が廻船問屋の前にしっかりとつないでおいたはずなんだけど。
        一体、誰が動かしたんだろう?

さて、六人の僧はいつの間にやら、再び強い雨と雷鳴の真っただ中にいました。

一の僧 : 大変な雷雨じゃ。こりゃ、なんとか急いで雨宿りする場所を探さんといかんな。
二の僧 : 先程の芳しい花と舟は一体どこへ消えたのじゃ?
三の僧 : どうやら、我々は元の世界に戻ることができたようですね。ヤレヤレ。
四の僧 : 何とも摩訶不思議な体験をしたものだ。
五の僧 : 我々は世間の人々よりも知恵があるとばかり思い込んでいたが、思い上がっ
       ておった。まだまだ知らぬ事が沢山あることを、あの子供たちに教えられま
       したな。
六の僧 : ホンに、ワシらも修行が足らぬということじゃ。もっと精進せねばならぬのう。
一の僧 : あの子たちは大切なことを気付かせてくれた恩人ですな。ありがたいことじゃ。

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