「龍のなみだ」と六人の僧

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昔、布教と修行のため、托鉢をしながら全国を行脚している六人の僧がいました。

ある山里の集落に足を踏み入れた時のことです。目がくらむばかりの稲妻と大音響の

雷が鳴ると同時に、大粒の雨が降り出したのです。雨足のあまりの強さに六人の僧は、

近くの大きな屋敷に飛び込みました。

 

一の僧:ごめんください!急な雨で難儀をしています。雨が小降りになるまで、軒先

     で雨宿りをさせてください。

二の僧:返事がないが、留守なのかな?待てよ。この屋敷には何やら悲しい雰囲気が

     漂っているぞ。何かあるに違いない。

三の僧:雨音にまぎれて人の泣き声が聞こえるな。

四の僧:無断で悪いが、軒先伝いに庭の方に回ってみることにしよう。

 

広い庭越しに僧たちが目にしたのは、座敷で数名の男女が泣き崩れている姿でした。

 

五の僧:突然、おじゃまして申し訳ありません。雨宿りをお願いしようと思ったの

     ですが、深い悲しみに打ちひしがれているご様子を見て、声を掛けさせ

     てもらいました。

六の僧:皆さんのお悲しみの原因はその小さな棺にあるのですか?私たちは6人の修

     行僧です。もしかしたらお役に立てるかもしれません。

     差し支えなければ、お話ください。

屋敷主:まずは座敷にお上がりください。さて、私どもは子宝に恵まれなかったのです

     が、15年前、屋敷の前に可愛い女の赤児が置かれていたのです。

     添えられていた手紙には15年後の今日、受け取りに来るので大事に育てて欲

     しいと書かれていました。村一番の器量良しで、気立ての良い娘に育ったの

     に、今更返すことなどできません。

     そこで、ここにいる親族と相談して、眠り薬を飲ませて今日一日をやり過ご

     そうと考えました。娘を取り返しに来た者に「娘は死んだ」と思わせたかっ

     たのです。

一の僧:手紙に親の名前は書かれていなかったのですか?

屋敷主:「龍」と書いてありました。先ほど、私どものところに龍神が舞い降りてきて、

      棺を見たとたん、「大事に育てて欲しいと頼んだのに、娘を死なせてしま

      ったのか。お前たちの罪は重いぞ、この村に大雨を降らせ、土砂崩れで村

      を埋め尽くしてやる!」と言って姿を消したのです。

      そのすぐあとに、この大雨が降りだしました。娘は龍神の子だったのですよ。

      私どものわがままで村が全滅してしまいます。娘を揺り起こそうとしました

      が、目を覚ましてくれないのです。本当に死んでしまうのではないかと心配

      でたまりません。私たちが浅はかでした。

      このままでは村も娘も失ってしまいます。どうしたらよいのかわかりません。

二の僧:龍神様は、ほかに何か言いませんでしたか?

屋敷主:そういえば、「お前たちが救われる道はひとつだけだ。六人の修行僧を探し出

     せ」と言いました。そうだ!皆さまは六人の修行僧ですね。

     もしや、龍神が皆さまをここへ導いたのでは・・・私どもが間違っていました。

     どうか娘を眠りから覚まし、龍神のもとへお連れください。

     私どもはどのようなお手伝いでもいたしますから。

三の僧:分かりました。では、棺の中を見させて頂いて良いですか?何か手立てが見つ

     かるかもしれません。

 

六人の僧は棺を開け、何やら話し始めましたが、その言葉は周りにいる親族たちには

理解できないものでした。成り行きを見守るばかりです。突然、まばゆい稲妻と雷鳴

が響き渡りました。やがて静寂が訪れた時、ようやく棺から僧たちが離れ、かたずを

飲んで見守っていた人たちに語りかけました。

 

四の僧:棺の中には、もう娘さんはいません。娘さんは実の親である龍神様のもとに

     帰りました。あなたがたが注がれた深い愛情に対し、娘さんは心から感謝

     していましたよ。

五の僧:娘さんは自分の身代わりとして玉を置いていかれました。今、棺の中にあり

     ます。

六の僧:これは「龍のなみだ」という玉だそうです。この玉を娘さんだと思って、

     大切にしてくださいね。

屋敷主:そうですか。娘は実の親の元に戻ることができたのですね。本当に良かった。

     私どもの愚かな考えで、娘を死なせてしまったのではないかと不安でなり

     ませんでした。「龍のなみだ」を娘だと思って大切にします。

     ところで、娘はいつ龍神の元へ帰ったのでしょうか?せめて、お別れの言

     葉をかけたかったのですが。

一の僧:先ほどの稲妻と雷、あの瞬間に戻られたのです。みなさんは稲妻が光った時

     に、その光の中に娘さんを見たはずですよ。

     あの時、娘さんがお別れの挨拶をしたのです。

二の僧:その時に流した涙がこの「龍のなみだ」になったのです。

屋敷主:そうだったのですか。ちゃんとお別れの挨拶をしてくれたのですね。

三の僧:龍神様は怒りを収め、こちらに新しい娘さんを授けると言っていましたよ。

     この雨も、まもなく降り止むでしょう。土砂崩れも起きずに済みそうですね。

 

外はいつの間にか青空になっていました。六人の修行僧たちは屋敷の人たちに見送ら

れて旅立ちました。それから数日後、屋敷の前に元気な女の赤ん坊が置かれているの

が見つかりました。赤ん坊が入ったカゴに手紙は入っていませんでした。

屋敷の主人たちは六体のお地蔵さんを村の入口と屋敷の庭に建立し、お参りを欠かさ

なかったそうです。

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