キツネの恩返し

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昔、自分で育てた唐辛子や野菜を売って、生計を立てている嘉助という若い男がいま

した。今日も唐辛子と野菜を背中にいっぱい背負って、峠の先にある海辺の集落に向か

ったのですが、山越えの途中で季節はずれの大雪が降り出し、先に進むことができなく

なりました。 

嘉助:困ったな~、今日は諦めて引き返すことにしよう。それにしてもすごい雪だな。

    急いで帰るとしよう。あれ、あんなところでキツネが暴れている。

    おや、そばに子ギツネがいるぞ。どうしたのかな?そうか。猟師の仕掛けた罠

    に足を挟まれたんだな。お前が捕まると子供が死んでしまうかもしれないから、

    今、助けてやる。暴れるなよ!

 嘉助が罠を外して、持っていた塗り薬と包帯で傷の手当をしてやると、親子のキツネ

は何度も頭を下げながら林の中に消えていきました。嘉助は再び歩き始めましたが、雪

は降り続き、周りがどんどん暗くなってきました。早く家に着かねばと必死に歩いてい

ると、ほのかな灯りが見えたのです。何度も通っているこの山道に家などないはずなの

にと不思議に思いながら灯りの場所へ着くと、そこには「宿」と書かれた看板が出てい

ました。ずいぶん小さな宿でした。嘉助は背中の荷物を下ろし、頭を下げ、体を半分に

折りながら、やっとの思いで玄関に入りました。宿の中は思ったよりも広々としていま

した。

嘉助:ごめんください。大雪と山道の暗さで先に進めません。泊めていただけますか?

宿の女将:いらっしゃいませ。こんな山奥の宿にようこそおいでくださいました。今日

      は他にお客様はおりませんので、どうぞごゆっくりとお過ごしください。

      私は足を怪我しておりますので、娘に部屋をご案内させましょう。

嘉助:おやっ、女将さん、足の包帯から血が滲んでいますよ。ひどい怪我をされたので

    すね。私の持っている新しい包帯に取り替えてあげましょう。

女将:ありがとうございます。

宿の娘:お客様、母の包帯を取り替えていただき、ありがとうございました。あなた様

     は私たちの命の恩人です。ここはどんなに大雪が降っても、すぐに溶けて積

     もる心配がありませんので、どうぞご安心ください。

嘉助:包帯を取り替えたぐらいで命の恩人とは大げさな。でも、かなりの大怪我ですか

    らこの塗り薬を何度も塗ってくださいね。

女将:はい、ありがとうございます。突然のご到来なので夕食をお出しできませんが、

    明日の朝食は準備します。今日は早くお休みになって、お疲れを癒してくださ

    い。
嘉助:食事なら非常用のおにぎりがあるので大丈夫です。私は何度もこの峠を通ってい

    ますが、こんな宿があるなんて今まで知りませんでしたよ。

女将:見ての通りの小さな宿ですので見過ごされたのでしょう。では、おやすみなさい。

 こうして嘉助は運良く宿に泊まることができました。朝になり、顔を洗いに部屋を出る

と、女将と娘がみそ汁を作っていました。

女将:おはようございます。雪は降り止んで、いいお天気になりましたよ。どうぞお膳

    の前にお座りください。さ~、お待たせしました!

嘉助:お二人も一緒に食べませんか。賑やかな方がいいですからね。

女将:それではご一緒させていただきます。娘よ、お前もおいで。

嘉助:これは私が作った自慢の唐辛子を粉にしたものです。これを海辺の集落まで売り

    に行く途中だったのです。私の唐辛子粉はみそ汁によく合うと評判がいいので

    すよ。お二人のみそ汁にも入れてあげましょう。パッパ、パッパ。

女将:ハックション、ハックション。これは困った。ハックション。

娘 :ハックション、ハックション。もう我慢できない。ハックション。

嘉助:やや、女将と娘のお尻からキツネのしっぽが出てきたぞ。さては、お前たちはキ

    ツネだな。俺を騙すつもりだったのか?

女将:ハックション。騙すなんてとんでもない。私たちは昨日、罠に挟まれていたとこ

    ろをあなた様に助けていただいたキツネの親子なのです。ハックション。

    恩返しをしたくて、ここにお招きしました。ハックション。正体を知られた以上、

    このまま話を続けることができません。ハックション。

    ここは怪我によく効く温泉が出る場所です。できれば、娘をあなた様の嫁にもら

    っていただきたいと思ったのですが、ハックション。唐辛子のせいで、くしゃ

    みが止まらず元の姿に戻り始めました。もうお別れしなくてはなりません。

    助けていただいて、本当にありがとうございました。

    では、さようなら、ハックション。

嘉助:そうか、あのキツネの親子が助けてもらったお礼に、雪で困っている私を救って

    くれたのか。ありがとよ。「騙すつもりか?」なんて言って、ごめんな。

 キツネの親子が立ち去ると、嘉助は自分が小さな洞窟の中にいることに気がつきまし

た。昨日は大雪でしたが、そこは温泉の熱で暖かく、寒さから身を守ることができて命

拾いしたのです。

嘉助はそこに温泉宿を作りました。そしてまもなく、気立ての良い娘を嫁にもらいまし

た。二人できりもりするその宿は「傷が治る温泉」として、永く繁盛しましたとさ。

めでたし、めでたし。

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